週刊づらげるげ
 
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づらげるげ
【菊之助と化物(創作です)】

菊之助はいつも苛められていた。

それは孤児だったこともあるが
彼の心が純粋で優し過ぎたこともあった。

大人の村人達もそんな彼を不憫に思うどころか
関わりたくないと敬遠していた。

彼は村はずれの山寺で
いなくなった住職の代わりに奉公を続けていた。

菊之助はいつも独りぼっちだった。



ある日村人の一人が血相を変えて
村長の家を訪ねた。

「大変じゃ!
 ばっ・・・化物が現れたっ!」

「何じゃとっ!」

村人の話によると
夜に近くの田を見回りに行ったら
八尺ほどの大きさの化物が田を荒らしていたそうで
その風貌と形相に腰を抜かしたそうだ。

化物は村人を襲うこともなく
すぐに村の外に去ったらしいが
また来るかもしれないと心配した村長は
村人達に警戒を強めるようにお達しを出した。

やがてすっかり暗くなったある夜のこと
納屋で食べ物を漁っていた化物を
村人の一人が見つけた。

化物は逃げ出そうとしたが
斧や鍬を身構えた村人達に取り囲まれた。

「やいっ化物!
 村を襲って許さんぞ!
 いざ成敗する!」

村長はそう勇んで声を上げ自ら持っていた鉈を
振り下ろそうとした。

「待って!」

村長を制し叫んだのは菊之助だった。

唖然とする村長や村人を尻目に
彼は化物に近づきこう言った。

「お願い、村長さん
 この化物を許してあげて!」

「何を言っているんだ菊之助
 さては化物の手下かっ!」

そう皮肉めいて問いかける村長の言葉に
村人達は皆武器を構えながら笑い出した。

「違う!
 この化物は・・・この化物は・・・」

そう言って菊之助は
化物にしがみついて涙を流した。

化物はまるで子供をあやすように
彼をゆっくり抱きかかえた。

すると一条の光が辺りを照らし
気がついた時には化物の代わりに
いなくなった住職が菊之助とともに現れた。

突然の展開に言葉を失う村人達。

「住職殿!
 ご無事でしたかっ!」

村長は声を上ずらせてそう言うのが精一杯だった。

住職の話によると
彼がいつものように念仏を唱えていると
突然化物の姿になり
元の姿に戻るには
一人でも村の人の慈愛を
受けることだと悟ったそうだ。

「菊之助・・・
 今まで済まなかった・・・
 この通りだ」

そう言って村長は深々と頭を下げると
他の村人達も涙ぐみながらそれに従った。

「いやっ
 おらは・・・その・・・」

そう言って戸惑う菊之助を住職は温かく見守った。

それからというもの
村人たちは菊之助を村の恩人として
労を惜しまず接するようになった。

菊之助はもう独りぼっちではなくなった。

10/16^21:07[編集]
づらげるげ

「ようやく新しい殿様が国入りされるそうじゃ」


筆頭家老の唐吉郎は
そう言うと胸を撫で下ろした。


「しかし噂ではかなりの”うつけ”と伺いました
 某はいささか心配であります」


唐吉郎よりも若い家老の重兵衛は
そっと溜息をついた。


「まあまあ、そう考え込むな
 考え過ぎるのがそなたの悪い癖
 全ては来てからじゃ」


唐吉郎はそう彼を諫めた。










それからある日
新しい殿様が多くの家来を引き連れ登城した。


お迎えする側の唐吉郎と重兵衛は
座敷の前の廊下で出迎えた。


すると陽気で騒がしい声が
廊下中に響き渡り
二人は思わず顔を上げた。


「おお、これはこれは出迎え御苦労」


はだけた派手な着物と乱れた髪
そして明らかに赤ら顔の殿様は
そう言って二人を労った。


二人は呆気に取られながらも
殿様について座敷の奥に座った。


「いやはや、長旅も肩が凝る
 もっと酒はないのか?
 この地の名産の肴はないのか?」


着いて早々に遊ぶことにしか興味を持たない
その振る舞いに重兵衛は落胆した。


「は、上様の意に添うように
 手筈をおつけ申し上げます」


重兵衛の杞憂を尻目に
唐吉郎は媚びへつらうように笑いながら頷いた。


するとその時彼らのいる座敷に
使いの者が現れこう言った。


「上様
 はばかりながら申し上げます
 先日の大雨で田畑が流された村人が
 陳情に参っているのですが」


「これ、着いたばかりでお疲れの上様に
 何たる無礼!」


唐吉郎は話を遮るようにして激昂した。


「しかし話だけでも・・・」


重兵衛はためらいながらも口を開いた。


「ならぬ!
 上様の意に沿うことが我らの務めなのじゃ
 それともそなたは上様に逆らう所存か?」


唐吉郎はそう言って重兵衛を問い詰めた。


「これ、諍いはもうよいか」


成り行きを聞いていた殿様は
面倒臭そうに首を傾げてこう言った。


「重兵衛と申したな
 儂が遊びに興じるのは不服か?」


しばらく考えた後
重兵衛は重い口を開いた。


「不服ではございませぬ
 ただ、上様の本分を忘れてはならぬかと」


「重兵衛!
 上様に何たる無礼なことを
 上様に対してお詫び申し上げよ」


唐吉郎は殿様の顔色を窺いながら
重兵衛を叱り飛ばした。


重兵衛は
「いえ、某は上様に
 立派にこの国を治めて頂きたいと思い
 こう申し上げております」


重兵衛は絞り出すような声でこう進言した。


「重兵衛、貴様・・・」


唐吉郎は殿様の目の前で
自分が陥れられているように感じて許せない。


「もうよい、わかった
 重兵衛は少し席を外せ
 儂は唐吉郎と話がしたい」


そう言って殿様は
重兵衛を座敷から出るよう促した。










長いようで短い時間の後
唐吉郎は真っ青な顔をして座敷から出てきた。


「重兵衛
 今度はそなたに話しがあるそうじゃ・・・」


入れ替わるようにして
重兵衛は座敷に入ると
相変わらず崩れた姿勢で佇む殿様は
彼を近くに招いてこう尋ねた。


「改めて聞こう
 そなたは儂が遊びに興じるのは不服か?」


「いえ、遊ぶことを咎めるつもりはございませぬ
 ただ、上様の本分を・・・」


「それで儂を諫めるつもりなのじゃな?」


重兵衛を遮るように殿様は
真剣な眼差しで少し語気を強めてこう尋ねた。


「はっ」


長い沈黙がしばらく続いた後
意を決して重兵衛は頷いた。


「ははは、天晴れじゃ
 さすが新しい儂の家来である
 やはり家来の本分はこうでなければ」


座敷中に響くような笑いを見せ殿様は
続けてこう言った。


「重兵衛
 そなたを筆頭家老に任ずる」


「あっ・・・」


言葉に窮した重兵衛に対して
殿様は悪戯っぽく笑ってこう言った。


「案ずるな
 唐吉郎は同じ理由で先ほど解任した」

6/30^23:05[編集]
づらげるげ
【丘の桜さく】

「杣七さん
 私を連れてこの家を出ておくんなまし。」

私はそう言って杣七に迫った。





私の名はお園。

播磨屋という商家の一人娘だが
使用人の杣七という想いを寄せる者がいた。

杣七も私のことを慕ってくれていたが
私には隣町の商家に嫁ぐ約束が成されていた。

相手の若君の悪評はもちろんのこと
杣七と別れることは
私にとって耐えがたいものだった。

私は杣七に駆け落ちの約束をし
気づかれぬようこっそり屋敷を出ようとした。





「お嬢様
 こんな夜更けにいかがされました?」

暗がりから番頭が現れ私は狼狽した。

「そういえば杣七の姿も見かけませぬな
 もしや聞き捨てならぬことをお考えか。」

「そ・・・そんな。」

「せっかく目をかけてやったものを
 恩を仇で返しおって
 杣七の居場所を教えて頂こう。」

「教えて・・・何を。」

「見つけ次第・・・!」

そう言うと番頭は懐から匕首を取り出した。

「いけませぬ!」

私がそう叫び番頭の行く手を阻んだのと
番頭が私を振り切って
屋敷を飛び出そうとしたのは
同時の出来事だった。

「あっ・・・。」

私と番頭はもみ合って倒れ
私の胸には深々と匕首が突き刺さっていた。

「お嬢様!」

番頭は他の使用人達を呼ぶと
こう叫んだ。

「お嬢様が杣七に刺された!
 奴はまだ遠くない所にいるはず
 必ず探し出せっ!」

私は彼らとは逆の方向の
杣七の待つ丘に向かって走り出した。

私の体はもうこの世のものではなかった。





丘では杣七が
私を見るなり心配そうに駆け寄った。

「杣七さん
 残念ながら私は行けなくなりました。
 どうぞあなただけでもお行きなさい。」

番頭の追手が来ることを伏せ
私は杣七に訴えた。

「えっ、何故ですかっ!?」

「理由は申し上げられませぬ。」

納得しない杣七に私は歯痒さを感じていた。

「それでは合点がいきませぬ・・・
 あの相手の元に嫁ぐおつもりですか?」

「ええ。」

一瞬の沈黙の後
私は咄嗟に嘘を言い放った。

「彼は実はとても優しいお方。
 そなたのような身分の低い者とは違うのです。」

激昂する杣七を諦めさせるには
他に手立てがなかった。

「それは、まことかっ!?」

「はい、そなたにはもう愛想が尽きました。
 さぁ、もう行きなされ。」

張り裂けそうな気持ちを隠しながら
私は精一杯演じた。

無念を滲ませ走り去る杣七を見送り
追手が来ないことを確かめた私の心は
丘の上に咲く桜の木の下に舞い落ちた。

私の心を映すように
燃えるような桜の花びらが私を包んでいた。

4/24^07:21[編集]
づらげるげ
【桜さく丘に】

「杣七さん
 私を連れてこの家を出ておくんなまし。」

お園はそう言って私に迫った。





私の名は杣七。

幼い頃に播磨屋という商家に奉公し
今は旦那様や番頭からも目をかけて頂き
商品を任せられるまでになった。

私には旦那様の一人娘でお園という
想いを寄せる者がいた。

お園も私のことを慕ってくれていたが
お園には隣町の商家に嫁ぐ
約束が成されていた。

相手の若君は女癖が悪いと
噂が絶えなかったのだが
播磨屋の存続のためなら仕方なしと
皆諦めていた。

もちろんお園は猛反対した。

そしてある日私に打ち明けた。





「あなたほどの器量があれば
 きっとどこでも成功しますわ。」

「私を拾ってくれた御恩
 旦那様を裏切ることはできませぬ。」

「ならば嫁いだ私が
 どのような目に遭っても良いと。」

「そっ、それは・・・。」

「あなたをお慕い申しております。」

「おっ、お嬢様。」

「どうぞ、お園と呼んで・・・。」

しばし沈黙が流れた後
お園は覚悟を決めたようにこう言った。

「夜明け前に村外れの丘でお待ち申し上げます。
 あまりここで長居をすると
 怪しまれるのでこれにて。」





私はこっそり屋敷を抜け出し
約束通り丘の上でお園を待った。

丘の上にある一本の大きな桜は
私達の未来を祝福するかのように
燦然と咲き誇っていた。

しかしいつまで待ってもお園は現れなかった。

私は心配で居ても立ってもいられなかった。





そこへ丘の向こうから
髪を振り乱しながら駆け寄るお園の姿を見つけた。

私は慌てて駆け寄ると
お園は息を切らせながらこう切り出した。

「杣七さん
 残念ながら私は行けなくなりました。
 どうぞあなただけでもお行きなさい。」

「えっ、何故ですかっ!?」

私は耳を疑ってお園に尋ねた。

「理由は申し上げられませぬ。」

「それでは合点がいきませぬ・・・
 あの相手の元に嫁ぐおつもりですか?」

「ええ。」

一瞬の沈黙の後
お園は冷たくこう言い放った。

「彼は実はとても優しいお方。
 そなたのような身分の低い者とは違うのです。」

「それは、まことかっ!?」

「はい、そなたにはもう愛想が尽きました。
 さぁ、もう行きなされ。」

うんざりした表情でお園は告げた。

私は涙をこらえて走り出した。





それから数年後

遠い国で商人として成功した私の元に
播磨屋が潰れたという風の噂を聞いた。

私はお園の身を案じながら屋敷の庭に目をやった。

庭には朝日を浴びて光り輝く桜が
あの日の丘の桜のように咲き誇っていた。

4/22^20:14[編集]
づらげるげ
【人形塚】

むかしむかしあるところに
お吉と呼ばれる老婆がおった。


お吉は若い頃に徳兵衛という夫に先立たれ
それからずっと独りで暮らしてきた。


お吉には大切にしていた一体の人形があった。


それは徳兵衛を模した人形で
長い年月により
髪や顔や衣服はぼろぼろになっていたが
お吉は丁寧に扱っては
自分の話し相手としていつも傍に置いていた。


村人はそんなお吉を
頑固で風変わりな老婆だと鼻で笑っていた。


ある日、隣村で村人全員が
家の中で無惨に喰い殺される事件が起きた。


熊の仕業なのか或いは鬼の祟りか
瞬く間に国中に噂が広まり人々は恐れ慄いた。


その晩、お吉は奇妙な夢を見た。


薄暗がりの中で佇んでいるのは徳兵衛で
驚くお吉を意に介さず
真剣な眼差しでこう諭した。


「お吉や、よく聞きなされ。
 鬼の次の目的は
 この村の者たち全て喰い殺さんことにある。
 そこでじゃ・・・。」


徳兵衛はお吉に鬼の祟りを避ける術を伝えると
白い霧のように消えていった。


目が覚めたお吉は
急いで村の家々を訪ね
夢の内容を話しては村人に説いて回った。


それは、日が落ちるまでの間に
村人の数だけ人形を作り
玄関に備えよというものだった。


人形を一体作り上げるだけでも手間がかかるのに
普段からお吉を鼻で笑っていた村人たちは
お吉が気でも触れたのかと笑い相手にしなかった。


お吉は村人たちが
訴えを聞き届けてくれないことに苛立ちを感じ
自分の非力を悔やんだ。


そして日が暮れ
月も出ない暗い夜が訪れた。


お吉は心配で眠れずにいると
ざわざわとした嫌な気配が近づいているのを感じた。


それは姿が見えずとも鬼の存在に相違なかった。


お吉はまるで金縛りにあったかのように
身動き一つ取れず寝床で横たわっていた。


鬼は玄関の前で一旦立ち止まり
そのまますり抜けて入ってこようとした刹那。


「勝手に入ってくるとは何事ぞ!
 早々に立ち去れよ!」


猛々しい声とともに玄関に向かう何者か。


身動きの取れないお吉だったが
声の主が徳兵衛だということはすぐに確信した。


玄関では徳兵衛の怒声と
鬼のおぞましい唸り声が交錯したが
すぐに静かになり
辺りに嫌な気配はなくなった。


明くる朝、お吉が玄関を見ると
大切にしていた人形が無残に引き千切られていた。


お吉は誰もいなくなった村を嘆き悲しんだ後
村の高台に大きな塚を築き
村人の数だけ人形を作って供養をし
丁寧に繕い直した徳兵衛の人形とともに
祀るようになりましたとさ。

2/12^18:53[編集]
づらげるげ

『この桜吹雪
 見事散らせるもんなら散らしてみろぃ!!』

威勢のいい啖呵を切って
テーマパーク内のショーは佳境に入る。

JUNはまるでデジャヴのような
その光景に見とれている。

「でさぁ、結局どうだったの?」

これからクライマックスに向けて盛り上がる
立ち回りを遮るようにして
使い魔のヨシツネはJUNに声を掛ける。

「もうっ・・・静かに!
 今いいところですのよ!」

少しイラッとした表情でJUNは答える。

とはいえ『過去改変』を阻止し
ヨシツネはもとより現代の人間全てに
『遠山の金さん』の記憶を戻したJUNは
ホッと胸を撫で下ろす。

「もうショーは終わっておるぞ
 それとも儂のサインかな?」

気がつくといつの間にかショーも終わって
周囲はJUNとヨシツネそして
遠山の金さん演じる俳優しか残っていなかった。

「んっ・・・
 そなた・・・初めて会ったというのにそんな気がせぬ・・・
 何だか懐かしいような・・・」

「きっ・・・気のせいですわっ」

そんなJUNの動揺に全く気づかず
金さん演じる俳優はJUNの胸元を眺めながら
唾をゴクリと飲み込んだ。

「そっ・・・それよりそなた
 クノイチとしてここで働いてみる気はないかね?
 ほれっ・・・入浴シーンも用意するぞ」

「それは別番組ではないですこと?」

すかさずJUNはツッコミを入れる。

「ほらっパフパフってあるじゃろ・・・
 儂もそれが体験してみたくて・・・なっ?」

「なっ・・・じゃないですわ!
 金さんがこんなに遊び人だったとは
 知りませんでしたわ!」

どうやらJUNの方こそ
『過去改変』して金さんを
さらに遊び人にしてしまったらしい。

「そう言わんと・・・ほれ・・・もっと近う」

金さんがしつこく食い下がるのを見て
JUNは呆れるように呪文を投げ捨てた。

「うん.こ!ちん.こ!まん.こ!」

「ははぁーっ!!」

条件反射のように金さんは土下座をする。
その後で

「へっ・・・何故私はひれ伏したのであろうか・・・?」

状況が掴めず呆然とする金さんと
それを笑うJUN。

「さぁ〜そろそろ帰ろっか!」

JUNはヨシツネを従えて
意気揚々と家路に就いた。

その途中・・・

「ところで姐さん
 本物の金さんのサインと写メはどうなったの・・・?」

「ギャー!!!」

ヨシツネは思い出したかのようにそう呟くと
JUNの悲痛な絶叫が
花びら舞う夕暮れの桜並木に虚しくこだました。





おわり

2/9^09:51[編集]
づらげるげ

「うん.こ!ちん.こ!まん.こー!!」

JUNは祈るようにそう叫ぶと
最大出力(マックスパワー)にした鎌を四方に振り回した。

鎌の先からは全てを切り裂く真空波
すなわち鎌鼬(カマイタチ)が
妖魔や周囲にいる全ての盗賊団を襲う。

そして例外なく全ての盗賊団は
体を真っ二つにされて命尽きていた。

(なっ・・・まさか・・・こんなことが・・・!!
 がはっ・・・!)

断末魔とともに
最後の力を振り絞って見回した妖魔の目には
JUNに向かって土下座をする景元の姿が映った。

そう土下座・・・身を屈めたことで
JUNの鎌鼬から逃れたのである。

「これにて一件落着・・・ではないですわね〜」

「何事かっ・・・!これはっ・・・!?」

外の騒がしい状況に再び様子を見に来た
邦忠と近江屋が目にしたのは
真っ二つにされた盗賊団の亡骸と
そこに立ちはだかる景元の姿だった。

「邦忠!
 近江屋!
 そなたらの悪事・・・
 お天道様は見逃しても
 この桜吹雪、決して見逃すわけにはいくめぇ!!」

そう凄んで景元は
着物をはだけて上半身を露わにすると
鮮やかな桜吹雪の刺青を披露した。

「くっ・・・この小鼠がっ!」

邦忠は刀を抜いて斬りかかるも
あっけなく峰打ちにして気絶させられる。

「ひっ・・・ひぃー!」

近江屋は逃げ出そうとしたところで
屋敷の外から騒ぎを聞きつけた同心達によって
捕らえられていた。

景元は同心達に見つからないように
そっと姿を隠して久しぶりの我が家へと戻った。





景元が生きて戻ったニュースは江戸中を駆け巡った。

そして近江屋さらには前奉行の邦忠の企てた
一大事件は
JUNが時代劇で観ていた通りの
見事な遠山裁きとなった。

「JUN殿、本当に世話になった!
 このご恩は一生・・・いや永久に忘れねぇ!
 そなたも達者で暮らせよっ」

「ふふふっ・・・
 江戸言葉がしっかり身に着いたようね
 それでこそ金さんですわ〜」

「へっ、てやんでぃ
 それよりもこの儂が金さんだということは
 内緒にしといてくれよっ」

少し照れ臭そうにして景元はそう笑った。

『これにて一件落着!!』

景元とJUNの掛け声が奉行所のお白洲にこだました。

2/5^16:25[編集]
づらげるげ
【【異伝】死神JUNの桜吹雪10】

JUNの悪い予感はすぐに現実のものとなった。

「旦那・・・
 この屋敷の下には小さな鼠が潜んでおります
 ご注意遊ばれませ・・・」
 
不意に密会を遮るように入ってきたのは
盗賊団の首領であった。

正しくは首領の体を借りた妖魔・・・
と言った方が良さそうだ。

屋敷の下はくまなく暴かれ
すぐに景元は二人の元へ連れ出された。

「お前が儂を嗅ぎ回っている鼠か・・・
 見たこともない奴だが
 畏れ多くも無礼なことに相違ないのぅ・・・」

そう言って邦忠は目を細める。

「やいやい、おめぇの悪事は
 儂ならずともお天道様にゃお見通しよっ!!」

「はっはっはっ!威勢のいい鼠じゃな!
 この状況も図りかねるとは
 愚かなことこの上ないわっ!
 おいっ!鼠の処理は任せるっ!」

そう言うが早いか
邦忠は近江屋とともに奥の座敷へと姿を消した。

「はっ!!」

残った首領は
姿の見えないJUNに向かってニヤリと不敵に笑った。

それはJUNですらぞっとするような
妖魔の笑みであった。

首領の合図で
盗賊団は景元を取り囲んで刀を構えた。

盗賊団は妖魔の魔力に憑りつかれ
人の心を失っていた。

それにいくら景元が剣の達人であっても
これほどの人数に取り囲まれたら
命の保証はないだろう。

すると首領はJUNにしか聴こえない声で
こう切り出した。

「けっけっけっ!!死神の小娘よ!
 よくもまぁその鎌を横取りしたものだな?
 その代価(ツケ)は高くつくぞっ!
 まずはこの遠山の命からじゃっ!!」

「ふふふっ・・・この鎌は元々私の物よ
 そんな下らない理由で『過去改変』されるほど
 金さんの命は安くはないですわ!」

同じく妖魔にしか聴こえない声で
JUNはそう言ったものの
この局面を打開する策に窮していた。

JUNの鎌を使って
最大出力(マックスパワー)を使えば
妖魔や盗賊団は粉砕することが可能だが
同時に景元も失うことになる。

かといって出力を抑えたら
妖魔や生き残った盗賊が景元を討つだろう。

「けっけっけっ!!喚け騒げ!
 余に逆らうとこうなるのだっ!!」

妖魔は引き続きJUNにしか聴こえない声で
高らかにそう叫んだ。

(くっ・・・万事休すかっ・・・!?
 はっ・・・待てよっ・・・!!)

景元を見やりながら
何もできない自分に歯痒さを感じていたJUNだが
ある考えが閃いて目を輝かせた。

と同時に手にしていた鎌に
最大出力(マックスパワー)を注ぎ込み
屋敷中に響き渡る声でこう叫んだ。

2/2^10:49[編集]
づらげるげ
【【異伝】死神JUNの桜吹雪9】

悪党に扮した景元が呼び出されたのは
とある商人の屋敷の一角・・・
近江屋の別邸だった。

「やはりな・・・」

景元は自らの勘に得心して頷いた。

そして呼び出された盗賊団の輪の中から
そっと離れると
誰にも気づかれぬように
屋敷の下を潜り中の状況を窺った。

景元の睨んだ通り
屋敷の中には近江屋と
北町奉行火野邦忠が密会している最中であった。

「くくく・・・お奉行様の
 お力添えの賜物でありますぞ・・・」

そう言って近江屋は菓子折りを差し出す。

「ふふっ、近江屋そなたも悪じゃのぅ」

「いえいえ・・・お奉行様には敵いませぬ・・・」

時代劇でよく見る光景が
不可視の魔法で姿を消しているJUNの目の前で
繰り広げられている。

(証拠に写メでも撮っておこうかしら・・・?)

そう思ったJUNだか
無闇に『過去改変』を助長するものではないと思い
自重した。

その刹那・・・!!





JUNは急に眩暈のような揺らぎに違和感を覚えた。

それは現代にいた時に感じたものと同じ感覚であった。

(まさか・・・!!
 妖魔がここに・・・!?)

屋敷の外では先ほどとは打って変わって
禍々しいほどの気配をした存在・・・
妖魔が蠢いていた。

JUNが全神経を集中しても見つけられなかった
妖魔がついに姿を現したのである。

これだけおびただしい妖気を感じ取れなかった
自分の能力をJUNは責めた。

これでは景元の命が危ない!!

景元は屋敷の下で潜んでいるとはいえ
妖魔からすれば見つけることは容易いだろう。

(迂闊だったわ・・・まさか妖魔がこれほどまで・・・!!)

JUNは思わず唇を噛んで悔やんだ。

1/29^10:01[編集]
づらげるげ
【【異伝】死神JUNの桜吹雪8】

景元が姿を消してから一月が過ぎようとしていた。

景元が行方不明になったことは
幕府でも江戸市中でも騒ぎになったが
すぐに平穏を取り戻し
何事もなかったかのような日々が続いた。

その間JUNは江戸の町をくまなく探索したが
『過去改変』の元凶はもとより
妖魔の気配すら感じられずにいた。

(おかしいですわね・・・
 絶対にこの時代で何かが起きているはずなのに・・・
 それとも私の存在に気づいているのかしら?)

さすがのJUNも焦り始めた。

そろそろ現代に戻らないといけない
という気持ちも強かった。

それからしばらくたったある日
一つの事件は起きた。






江戸にある商人の屋敷から
大量の金銀財宝が盗まれたというのであった。

その仕業は
以前景元が怪しんでいた盗賊団の手によるものらしく
JUNはその犯行を訝しんだ。

しかし、現在の北町奉行である
火野邦忠の計らいで
その件はお咎めなしという異例の裁きであった。

というのも
邦忠の息のかかった近江屋という商人と
今回被害を受けた商人はライバル関係であり
邦忠が裏で糸を引いているのではないか?
とJUNは風の噂で聞いていたからであった。

JUNは景元の隠れ住む遊郭の一角を訪れた。

「昨今の江戸を騒がせている盗賊団
 金さんが睨んだ通りでしたわ」

「うむ・・・やはり儂の目に狂いはなかった・・・」

深く頷いた後
景元はJUNに懇願した。

「その盗賊団に儂が潜入すれば
 事件の黒幕が明らかになるやもしれぬ!
 今の儂なら誰も気づかれまい!」

JUNは少し考え込んだ後
景元の考えに従った。

盗賊団は密かに新たな人手を探していた。

それは次の仕事が近いことを
意味していたからだった。

ほどなく景元は
『金さん』の名前で盗みを働く流浪の悪党として
盗賊団の一員として迎えられた。

そして潜入してしばらく経ったある日のこと
ついに次の標的
商人の屋敷への盗みの計画が明らかになった。

1/26^19:11[編集]
づらげるげ
【【異伝】死神JUNの桜吹雪7】

「うんうん・・・
 我ながら上出来ですわ〜」

「・・・・・・」

彫った刺青を見やりながら上機嫌のJUN。

一方で罪人の施しという屈辱を受け
ショックを隠せない景元。

JUNは達成感に浸る余韻もつかの間

「次に二つ目なんですが
 遊び人らしく江戸言葉と
 酒と女遊びをマスターして頂きたいと・・・」

「そんな下衆なことは私はできぬ・・・」

「あらそこは
 『やかましぃやぃ!!』ではないですの?」

そう言ってJUNは潤んだ目で
景元の至近距離まで顔を近づける。

「やっ・・・やめぃ・・・」

途端に景元の顔が紅潮する。

「ふふふ、ウブなお方ですこと・・・」

そう言ってJUNはゆっくりと胸元を捲り上げては
ぎりぎりのところまで露わにして景元を挑発する。

「金さん・・・パフパフってご存知ないかしら・・・?」

吐息のように囁くJUN。

「あっ・・・うっ・・・!!」

手足を縛られた景元の声は
もはや言葉になっていない。

「さすがにこの格好は刺激が強いかしら・・・?」

そう言いながらJUNは悪戯っぽく笑う。

ただでさえ死神の装束は
肌の露出が高いのに
生真面目な景元にとって
JUNの挑発は気の毒としか言いようがなかった。

「さてと・・・
 金さんにはしばらくの間
 遊郭に隠れ住んでもらいますわ
 女遊びに慣れることもそうですし
 死んだことになったので『過去改変』の黒幕が
 どう出るか知っておきたいし・・・」

「で・・・三つ目の命令とは・・・?」

これ以上逆らっても無駄なことだと
観念したのかもしれない。

うなだれながらも絞り上げるように景元が尋ねた。

「あら・・・そうね!
 すっかり忘れていましたわ〜」

と言いつつJUNは
三つ目の命令の内容を全く用意していなかった。

「う〜ん、何にしましょうかしら・・・?」

少し悩んだ挙句
ポンと手を叩いてJUNはこう切り出した。

「いいですこと?
 私が・・・
 『うんこ!ちんこ!まんこ!』と言ったら
 私に向かって土下座をするのですわよっ!」

1/22^10:39[編集]
づらげるげ
【【異伝】死神JUNの桜吹雪6】

「こっ・・・ここは・・・んっ!?」

しばらく経ってから景元が意識が戻ると
手足に生じる違和感に戸惑いの声を上げた。

「ふふふっ・・・気分はいかがですの?
 金さんっ」

少し皮肉まじりにJUNがそう囁くと
景元は激高して叫んだ。

「おのれっ!妖怪めっ!!
 さてはあのごろつき達と
 共謀(グル)であったのであろう!!
 早くこの縄をほどけっ!!」

「ふふふっ・・・こう見えても私
 縄の縛り方には自信があるんですのよ〜」

JUNはその声を無視するように話を続けた。

「さて、金さん
 アナタ命が狙われているのはご存知ないかしら?
 そしてアナタは死んだことになっているのよね〜」

「この儂に向かっての不届き千万!
 一生忘れたりはせぬわっ!!」

景元も怒りでJUNの話を聞いている素振りはない。

それを制するようにJUNは

「いい!?
 これから言うことは大事なことだから
 真面目に聞いて欲しいのですわ!
 未来にも影響のある大事なことですの・・・」

「未来!?
 そなた一体・・・!?」

状況が飲み込めず呆然とする景元。

「そっ
 アナタ命が狙われているのよ
 運命とは違った意図で
 ・・・といっても難し過ぎますわね。
 そ・れ・よ・り・も・・・」

JUNは今まで景元に感じていた違和感を思い返しながら
こう続けた。

「本物の金さんはどうも私の思っている金さんと
 かなり違うようね・・・
 遊び人とは程遠い頭の固さだし
 桜の刺青はしていないし・・・」

そう言って景元のはだけた上半身を見やる。

「たわけっ!!
 遊び人とは何事ぞっ!
 それに刺青は罪人の施し!
 一生の恥であるっ!!」

「あら〜そう言うと思って
 これから金さんは
 三つの命令に従ってもらいますわ〜」

JUNはそう言うと不敵に笑った。

「まず一つ目ですが
 桜吹雪の刺青を彫って頂きたいと思いまして・・・」

「そんな罪人の扱いなど決して・・・」

「そう仰ると思って
 こちらでご用意させて頂きましたわ〜」

景元が言い終わらないうちにJUNはそう言うと
手にはいつの間にか針と墨が握られていた。

「やっ・・・やめろーっ!!」

景元は激しく抵抗するが
縄はきつく食い込んで微動だにせず
景元の叫びが虚しく響き渡る。

「ふふふっ
 殿方の苦痛に喜ぶ様はいつの時代も快感ですわ
 刺青なんて彫るのは初めてですがうまくいくかしら?」

JUNの悪戯っぽく笑う瞳は死神そのものだった・・・。

1/19^09:53[編集]
づらげるげ
【【異伝】死神JUNの桜吹雪5】

「ええいっ!!
 構うこたぁねぇ!!
 やっちまえっ!!」

景元達を取り囲むようにして
身構えていたごろつき達は
その一人が叫ぶと同時に
景元達に向かって襲い掛かった。

しかし景元達は鮮やかにその突進を交わすと
息の合った動きで次々とごろつき達の刀を捌いた。

景元自身も川を背後にして側近に守られながらも
臆することなくごろつき達を圧倒していった。

時代劇・・・いやそれ以上の迫力に
姿を隠しているJUNは釘付けになった。

(あら・・・見とれていてはいけませんわね・・・)

姿を隠した本当の理由
その目的のためにJUNは景元にそっと近づいた。

景元はごろつきの一人と剣闘を繰り広げていたが
見た目にも景元が優勢であったのは明らかだった。

JUNは姿を隠したまま景元の体を強く押した。

「わわっ!!」

訳もわからずいきなりバランスを崩した景元は
そのまま背後の川に落ちてしまった。

すかさずJUNはそれを追って
川の中に飛び込んだ。

「景元様っ!!」

景元を心配する声が川べりを交錯し
暗がりを必死に探す側近達。

「へへへっ・・・浮かんでこねえな!
 ざまぁねぇぜ!
 今日のところはこれで許してやるわっ!」

しばらく経っても浮かんでこないことに安堵したのか
ごろつき達はまるで勝ったかのように
そう言って次々と引き揚げた。

「景元様・・・」

側近達はなおも探そうと試みるが
深い川の流れに遮られ
しばらくした後についに諦めて去って行った。

JUNは川の中で気を失った景元を抱くように
はるか下流を深く潜り泳いでいた。

JUNと景元の周囲には
魔法で空気の膜が生じていて
溺れることはなかった。

景元の着物ははだけ
上半身が裸になっていたが
JUNはそれ自体は気にも留めず
別の疑問が頭をよぎりながら泳ぎ続けた。

(これくらい離れていればいいですわ・・・)

人気のいない岸辺に上がったJUNと景元は
近くの小屋に入り
景元が意識が戻るのを待った。

景元の手足を縄で縛り上げながら・・・。

1/17^18:37[編集]
づらげるげ
【【異伝】死神JUNの桜吹雪4】

(実際の金さんって
 こんなに堅物だったのかしら・・・?)

時代劇の演出とはいえ
実物とのあまりの性格の違いにJUNは狼狽した。

そしてもう一つの疑問が生じ
JUNは景元に尋ねてみた。

「ところで何で奉行所のお偉いさんが
 こんな夜道を歩いているの?
 何か重大な見回り?」

すると側近の一人が

「うむ
 近いうちにこの江戸にはびこる盗賊団の
 動きがあると知らされ
 こうやって夜な夜な見回りを・・・」

その話を聞いてJUNは悪い胸騒ぎを覚えた。

(まさかこの件が過去改変に関わるのかしら!?
 だとしたら金さんの命も・・・!?)

死すべき運命の者の魂は確実に刈り取るが
その時に死すべき運命でない者の魂は決して刈らない。

全ては『予定調和』を重んじるJUNのポリシーでもあるが
その理(ことわり)を打ち破ろうとしている存在が
あるのも事実なのである。

かといってこれを彼に伝えたところで
信じてくれるとは到底思えない。

と、その時
橋の向こうから大勢のごろつきが大声で話しながら
こちらに向かって歩いて来るのが見えた。

酒に酔っているのもそうだが
明らかに風情の悪い出で立ちだった。

「おいっ!
 役人どもがこんな夜遅くに何を嗅ぎ回っているっ!
 すぐに立ち去れいっ!!」

彼らは酒に酔っているのか
大声で喚き散らしながら景元達に近寄った。

「あっ・・・こ奴ら!!
 今しがた話した盗賊団の一味ですぞ・・・!」

景元の側近はJUNに向かって囁くと
景元も同調してこう言った。

「女子は危険であるが故
 退っておりなされ
 ここは私達に任せられよ!」

「どこに女子がいるんじゃ!
 戯言は奉行所に帰ってから言うんだなっ!」

ごろつきの一人がそう啖呵を切る。

それを聞いて初めて景元は周囲を見回すが
JUNの姿は見えない。

そう・・・JUNは二人が気づく前に
不可視化の魔法で姿を隠し様子を窺っていた。

ごろつき達には妖気は感じられない。

人数的に不利とはいえ
理を捻じ曲げてまで景元が殺されることはないだろう。

それにJUNはある考えが浮かんでいたのであった。

1/12^20:04[編集]
づらげるげ
【【異伝】死神JUNの桜吹雪3】

JUNがまるで時代劇に出てくるような古びた橋に
差し掛かった時のことだった。

「そこの御仁!
 怪しい奴!
 ここに直れっ!!」

背後から数人の侍が現れたので驚いたJUNだが
怪しい奴がどこにいるかわからず
思わず周囲を見回した。

「そなたのことである!!
 何者!?
 さては人間ではないな・・・!!」

JUNは自分のことを指しているのに初めて気づき
思わず笑ってしまった。

確かに人間ではない・・・死神なのだから。

しかも江戸時代の服装とはまるで異なる
死神装束の姿のままでは
誰がどう見ても怪しい奴にしか見えない。

「人に尋ねる前に
 まずは自ら名乗り出るのが道理ではありませんこと?」

「何っ・・・!?」

「ぶっ・・・無礼者!!」

次々と怒号が沸き起り刀に手を掛ける者がいる中
それを制して後ろにいた一人の侍が口を開く。

「ははは、妖怪にしては筋が通っておる。
 儂は遠山左衛門少尉景元。
 北町奉行を仰せつかっている者である」

侍がそう言うが早いか目を輝かせてJUNは口を開いた。

「あらぁ、貴方が本物の金さん!!
 きゃーっ!!
 会いたかったわ!!
 私、JUN!!
 JUNって呼んで〜!!」

いきなり本人を目の前にしてテンションMAXのJUN。

一方の景元は狐につままれたような表情をする。

「きっ・・・金さん???」

「そうよ貴方、遠山の金さんでしょ!?
 私ず〜っとファンだったのよ〜!!」

側近の侍達は唖然とし景元は首をかしげる。
しかし危害の加える者ではないと察したのか
手に掛けてある刀をゆっくりと鞘に収めた。

「でもさぁ、金さんって
 もっと遊び人風だと思っていたのに意外〜」

「そなた、儂のことを金さんと呼ぶのは
 実にいただけない
 それに遊び人とはこれ心外
 どなたかと間違いではなかろうか・・・」

「えぇ〜だって北町奉行の遠山左衛門少尉景元でしょ?
 他にそんな人いる〜?」

「確かに儂は金四郎と呼ばれておるが
 初対面の者から金さんと呼ばれるのは
 失礼の極みであるが故・・・」

「そんなもんかなぁ・・・」

JUNは納得しつつも
景元の頭の固さに違和感を覚え始めた。

1/10^22:02[編集]
づらげるげ
【【異伝】死神JUNの桜吹雪2】

「えっ、姐さんタイムリープすんの?
 面白そうだなぁ
 今度は俺もついて行こうかなっ?」

「アンタは金さん知らないんでしょ?
 どうせ足手まといになるから
 アンタはお留守番してなさいよ・・・」

「足手まといはひどいなぁ・・・
 じゃあせめてその金さんという奴のサインか写メを
 記念に持って帰ってくれよ〜」

「ラジャー!!」

そう言うが早いか
JUNは道端に人間には見えない大きな魔方陣を描くと
おもむろに呪文を唱え始めた。

「クルクルバビンチョ
 パペッピポ
 ヒヤヒヤドキッチョの〜♪」

「姐さん・・・何その呪文・・・」

思わずヨシツネが尋ねる。

「別にいいでしょっ
 気分なんだから〜」

「へいへ〜い・・・」

もう何を言っても無駄だと悟ったヨシツネは
呆れ顔でJUNを見送る。

(いつかきっと必ず焼き鳥にしてやるっ・・・!!)

その姿を見ながらJUNは魔方陣の中に飛び込んだ。







死神JUNが強烈な違和感を覚えた
『時の歪み』を目指して
タイムリープした先は江戸時代中期だった。

ここに『遠山の金さん』のモデルとなった
北町奉行大目付、遠山左衛門少尉景元が
いるはずに違いない。

「う〜ん、この時代だと思ったのですが
 妖魔の気配は全くしませんわね・・・」

『時の歪み』に導かれてこの時代に来たが
穏やかすぎる夜の帳にJUNはいささか拍子抜けした。

(少し時代を遡り過ぎたのかしら?
 それならばしばらく様子を見るのも
 いいかもしれないわ)

JUNはそう考えながら
人気のいない川べりの道をゆっくり歩き出した。

背後に迫る人影にも気づかずに・・・。

1/10^22:02[編集]
づらげるげ
【【異伝】死神JUNの桜吹雪1】

JUNとヨシツネは時代劇を扱ったテーマパークにいた。

本日ここで「遠山の金さんショー」があり
抽選で招待されたのだ。

「いやぁん、この町並み見たことありますわ!」

「そりゃ撮影に使ってたら当たり前なんじゃね?」

時代劇さながらの町並みのセットにはしゃぐJUNと
冷静を通り越して呆れるヨシツネ。

JUNはヨシツネのツッコミも聞いていない素振りで
イベントが始まるのを今か今かと待っている。

「もし私が悪党どもに襲われたら
 弱いふりして助けてもらおうかしら?
 お姫様気分でキャーなんていいですわよね〜」

「誰も姐さんを襲おうとする強者なんて
 いないと思うけどね・・・」

「あぁっ!?
 何か言いました・・・?」

「わかった・・・姐さん
 鎌を振り上げるのはやめてくれ・・・」

JUNは大鎌を振り上げるが
もちろん普通の人間では見ることができない。

「それともこの鎌で殺陣をやってみよ・・・んっ・・・あれ?」

JUNは急に眩暈のような揺らぎに違和感を覚えた。

まるで時空が歪んだような不自然な感覚であった。

「ヨシツネ!!今のはっ!?」

「何っ!どうしたの姐さん?」

JUNのただならぬ態度に緊張するも
事態を把握していないヨシツネ。

「今、明らかに強烈な歪みが生じましたわよねっ!」

「えっ、俺には全然・・・」

しばらくJUNは様子を見るが
変わったことは特にない。

「思い過ごしだと良いのですけれども・・・
 ヨシツネ、せっかくの金さんショーが
 パァーになってしまったら・・・」

「金さんって・・・誰・・・?」

「・・・・・・!!」

ヨシツネの言葉にJUNは言葉を失い辺りを見回す。

まるで『金さんなんて最初からいなかった』かのように
世の中が流れている現実。

ただ一人・・・JUNを除いて。

「またもや過去改変・・・!?
 誰の仕業!?
 まさか妖魔!?」

JUNは神経を集中するも
妖気は全く感じられなかった。

しかし紛れもなく金さんの存在が消滅してしまったのだ。

「これは・・・!
 過去にタイムリープして原因を突き止める他ないですわね・・・」

1/10^22:01[編集]
づらげるげ
【【異伝】死神JUNの桜吹雪(序章)】

『この桜吹雪
 見事散らせるもんなら散らしてみろぃ!!』

威勢のいい啖呵を切って
見事な立ち回りをした主人公が画面から流れる。

遊び人のフリをして悪事を暴き
シラを切る悪党に桜吹雪の刺青を見せてお白洲を決める
痛快な時代劇のことである。

それを食い入るように瞬きもせず見つめる女性。

「はぁん、今日も素敵なお話でしたわ〜!
 やはり世の中こうでなくてはいけませんわね〜」

遠山の金さん(再放送)を観て
ひたすら感激している女性はJUN・・・
これでもれっきとした死神である。

JUNはただ単に時代劇が好きな死神というわけではなく
ワンパターンとも思えるほどの『予定調和』を重んじた。

決して、悪が栄えた試しはないし
最終的にはこうして成敗される。

予定調和は美しく
そして例外など存在しない。

死すべき運命の者の魂を確実に刈り取り冥界に持ち帰る。

それを遂行するのがJUNの使命であり
万物はかくあるべきと言うのがJUNのポリシーであった。

「てゆーか・・・姐さんもよく飽きねぇよな!?
 同じセリフの同じパターンだぜ・・・」

隣で呆れながらツッコミを入れる男はヨシツネ。
実はJUNの使い魔である。

「うるさいですわねっ!!
 カラスに美徳というものが
 理解できるはずがないですわよ!」

「カラスと言うな・・・」

そう、ヨシツネは普段はカラスの姿をしているが
変化(へんげ)の魔法を自在に操ることができる。

そんなヨシツネの呟きを無視するように
JUNは先ほどの時代劇の内容を反芻しては溜息をついた。

「こんな素敵な立ち回りをされたら
 思わず濡れてしまいますですわ・・・」

「姐さんも失禁するん・・・」

ヨシツネが言い終わらないうちに大鎌を手にしたJUNの目が光る。

「崇高なる比喩表現よ!
 カラスには理解できないと思いますけどもね・・・」

1/10^22:01[編集]

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